御首地蔵

【おくびじぞう】

国道42号線沿いにある観音寺は、東海近畿地蔵霊場の三十番札所である。そこにあるのが御首地蔵尊である。この変わった名前には、不可思議な由来がある。

天保11年(1840年)、この地に住む吉平という者が、近くの小山という土地を開墾していた時、一基の石棺を掘り当てた。石棺は粘土で厳重に密封されており、それを取り除いて中を確かめると、武器などの副葬品と共に一級の首が納められていた。底に小石を敷き詰め、板石を置いたその上に丁寧に安置された首級は、髪を首まで伸ばし、耳や鼻も腐り落ちずに残っており、ミイラのような状態であったという。驚いた吉平が村人を呼んでこの首級をどうするか相談した結果、近くにある観音寺の境内にある柏槇の木の根元に、壺に納めて埋め戻すことにしたのである。首級が納められた石棺の状態などから考えて、この首級の主はおそらく身分の高い名のある武人であろうと村人は推測したが、結局いつの時代のどのような人物であるかは判らないままである。

埋もれていたところを見つけ、さらに寺院に丁重に納めたためであろうか、この首級を拝む者は首から上の病が平癒するという噂が流れ、参詣者が増えた。そのため観音寺の境内にあった延命地蔵と合祀し、新たに“御首地蔵尊”として祀られるようになったのである。

地元では「お首さん」の名で親しまれ、石棺が見つかった4月に縁日として毎年供養が行われている。

<用語解説>
◆東海近畿地蔵霊場
三重県と和歌山県にある35の札所寺院と2つの特別札所寺院からなる霊場。霊場会は平成19年(2007年)に発足。

アクセス:和歌山県御坊市名田町野島