幽霊滝 滝山神社

【ゆうれいだき たきさんじんじゃ】

小泉八雲の『骨董』に収められている「幽霊滝の伝説」は、八雲怪談の中でも最も恐ろしく残酷な結末を迎える作品である。

ある冬の夜、黒坂の麻とり場で女たちが怪談話に興じていた。話は盛り上がり、誰か幽霊滝へ行ってみてはということになった。そこで安本勝という女が、皆の取った麻をもらうかわりに行こうと言いだし、その行った証拠に賽銭箱を持って帰ってくることにした。

お勝は赤子を背負ったまま滝へ向かった。誰も通らない夜道を駈けて行った。そして目当ての賽銭箱を水明かりの中に見いだすと、手を伸ばした。

「おい、お勝さん」突然、滝から声がする。お勝は動きを止める。「おい、お勝さん」再び怒気をはらんだ声がした。しかし気丈なお勝は賽銭箱を掴むと、そのまま麻とり場まで駆け戻っていったのである。

戻ってきたお勝を、皆が称賛した。麻は全てお勝のものとなった。そしておぶった赤子を降ろそうとして、背中がぐっしょり濡れていることに気付いた。血まみれの赤子の着物が床に落ちた。赤子の首は、もぎ取られていた。……

現在でも、この怪談の舞台となった幽霊滝は存在する。県立公園の駐車場から、整備された遊歩道を500mほど行った奥に滝山神社がある。その脇に幽霊滝がある。正式な名称は竜王滝。ただし八雲の怪談に登場するあやかしについては「天狗」と言い伝えられている。そしてこの滝については“2歳にならない赤子をこの滝に連れてきてはいけない”という禁忌が存在したとも言われる。

アクセス:鳥取県日野郡日野町黒坂