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鍛冶ヶ嬶
(かじがかか:かじがばば)
高知県室戸市佐喜浜町
 かつて日本には狼が住み着いていた。今となっては伝承として残るのみであるが、その代表的なものに「千疋狼」というパターンがある。この千疋狼の伝承で最も有名なものが「鍛冶ヶ嬶」の話である。
 ある時身重の女が峠を越えようとしていたが、途中で陣痛が起こり動けなくなった。通りがかった飛脚が助けたが、夜半となってしまい、狼の群に襲われた。女と共に木に登って逃げようとした飛脚に対して、狼の群は肩車をして迫ってきた。飛脚が短刀で狼の攻撃を防いでいると、「佐喜浜の鍛冶ヶ嬶を呼んでこい」という声がして、しばらくすると鉄鍋を頭に被った白毛の大きな狼が肩車の一番上に現れて襲いかかってきた。飛脚が渾身の力で短刀を振り下ろすと、鍋が割れてかなりの手傷を負わせたようであった。狼の群はそれと同時に逃げ去ってしまった。
 翌朝、飛脚は「佐喜浜の鍛冶ヶ嬶」を追って血痕を辿ると、鍛冶屋に着いた。家人に嬶がいるかと尋ねると、昨夜頭に怪我をして床に臥せっていると言う。飛脚は部屋に入ると、嬶を斬りつけた。嬶は件の白毛の狼であり、床下から実際の嬶をはじめ、多数の人骨が見つかったという。
 明治時代頃までは、この嬶の墓と言われるものが存在し、鍛冶屋の子孫も確認できたという(子孫の特徴として白い逆毛が生えていたらしい)。しかし現在では供養塚と呼ばれるものがあるのみ。それもあまり顧みられることもないような状態で置かれている印象であった。
<用語解説>
千疋狼
狼が群れを組んで襲いかかり(樹上の人間を襲うために肩車をする)、不利と見るやリーダー格が登場する話のパターンは、この鍛冶ヶ嬶以外にもいくつか例がある(狼の代わりに化け猫が登場する場合も)。この狼の一連の行動は、野生の習性(リーダーを中心に群れで行動するなど)を拡大解釈したものであるという指摘もある。
<関連伝承地>

鍛冶ヶ嬶供養塚

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